残業はどの業界でもありますが、飲食業界の残業はまさに地獄です。
修行して力つけている感がある時はむしろ悪くないですが、ただのコマとして使われる感じになると本当になぜ生きているんだろうレベルでむなしさを感じます。
そしてそういう会社にいるとがんばっても絶対に残業はなくなりません。休みもどんどん削られていきます。
調理・飲食歴15年、見てきた会社も約15の私が改めてその残業地獄に陥っていく仕組みをステップでまとめてみました。
ただ実際は残業っていう概念自体がなくて12時間以上働くのがあまりにも当然になっているだけなんですけど。ここではそれを残業という言葉に正しく直して書いていきます。
どんなにがんばっても残業になるしくみ
だいたいこんな感じstageは進行していきます。
【stage1】残業=がんばり
新卒だろうと中途だろうと社員として入るとまずはこういう尺度で測られます。
すすんで仕事(訳:残業)する奴はえらい、がんばっている、かわいがってやろう。残業しない奴はやる気がない、協調性もない、会社や店に貢献する気などない。というのがいまだに残っているのが実情です。
12時間以上が事実上の定時になっているので8~9時間で帰ったら早退くらいに見られます。
もうこの時点でアウトです。残業=当然、残業=美徳なんですから。
長く働くこと(残業)こそ真の仕事。残業=仕事、仕事=美徳、残業=美徳という悲しい三段論法。
今私はWeb業界にいますが、ほんの少し同じ傾向は感じます。でもやはり飲食業界は圧倒的にこの悪しき風習は強いです。長時間労働=えらいまたは当然という感覚がすべてを支配していると言っても過言ではありません。特に社長・経営層が60代くらいだと本気でそう思っています。
仕事の性質上もあります。常に店舗に一定の人数が必要な以上、頭を使って早く仕事を終わらせることは労働時間短縮につながりません。またみんなで仕事をすすめるので自分の担当が終わったら終わりなどはありません。シフト制でもそうでなくてもとにかく勤務時間が長い人が評価されます。無能だろうがダラダラだろうが長くいればOKの我慢比べです。最悪です。
そして多くの巧妙な企業は最初研修期間の頃は新人をしっかり帰らせます。上司も自分が無理してでも帰らせ休ませます。そして次のステージに進みます。
【stage2】建前は強制しない
「残業しろ」とは決して言われません。でも先輩たちは全員残業しているし自分だけ帰るわけにはいきません。
いやそもそも退勤時間がないということに気づきます。研修期間は指示されていたので帰っていたけれど、自立したら指示はきません。上司に気をつかう以上にバイトに気をつかいます。自分が抜けたら現場が回らなくなる状況でバイトに「時間だから帰るね」なんて絶対言えません。そんなことしようものなら「社員のくせに」と総スカンです。
「休みをとるな」とも決して言われません。でもマネージャーも店長もほとんど休んでいないのに自分だけ休むわけにいきません。ここ足りないんだけど出れる?って言われたら出るしかありません。代わりの休みとか言い出せる空気はゼロです。
まだ裁量は与えられていないので自分でシフトをコントロールさせてもらえません。店長はコスト削減のためにバイトはギリギリで回しています。バイトの休みが出たら当然うめます。それ以前に店長は自分の残業を当然に計算に入れているようです。

【stage3】ちょっと洗脳されはじめる
正式採用から少し経ちます。この段階から徐々に「自分たちで(帰れる)環境を作るんだ。経営者目線で考えろ」的なことをマネージャーや店長から言われます。
「結果を出せば残業しなくていいし休めるし給料も上がるぞ」。若いとそうなのかな、、そうだよな、とまじめに受け取ってとりあえず頑張ります。でもよく考えるとそう言っているマネージャーや店長は一向に帰りません。帰る気もありませんし、休みも取る気がないみたいに見えます。
「経営者目線」…ただの従業員なのに...。でも飲食の場合将来独立したい人の割合がとても高いので、上を目指す人たちの間では普通に通じる言葉なんですよねこれ。いろんな会社で聞かされました。
「結果を出せば残業しなくていい」はそれはそうなのですが、結果が出せるはずがありません。なぜなら本社から課される目標自体がもう現場の努力の域を超えているからです。本社の経営的無能さの尻拭いを押し付けられます。
「残業にならない仕組みは自分たちで作れ、それが社員の仕事だ」っていう論理。どこでも同じでした。明らかにおかしいのはわかっていますが、もちろん声に出して否定できません。頭の中でも「これを否定するとやっていけないだろう」というのはわかっているので自分に信じさせようとしてしまいます。否定したらどこにいってもやっていけない、飲食業界でやっていけないという恐さがあるからです。
【stage4】店長になり、無理ゲーに気付く
stage3の段階で辞めないと気づいたら店長になります。最初はやる気満々です。収入も悪くない感じになっているし、期待してるぞ的なことを社長やマネージャーから言われるからです。
でもしばらくたってstage3の疑問が再燃します。あれ?店舗レベルでやれること限界までやっても全く届かないぞと。ホワイトボードの売上目標は毎日届かないので赤字で記入します。
- コストがそもそも社員の残業ありきで計算されている(みなし残業MAXは当然+αの奉仕)
- FLの基準もおかしい
- 売上目標が平日でも土日並に埋めないと届かない
ということにはっきりと気づきます。
自分の身を削れるだけ削ります。新しく入る社員にも同じ道をたどらせます。ちょっと悪いなと思う気持ちもあったり、自分もやってきたんだから当たり前だ、という気持ちもあったりとなんだか自分の人格がよくわからなくなってきます。そのうちこういうことも考えなくなります。

【stage5】悩みながらも残業の日々
とはいえそれなりのポジションになっているので急には動けないし、ここまでの頑張りを棒に振るのもくやしい。いろんなタイミングでキレそうになります。が、たまにはやりがいとか感じることもあるし、給料日ごとに一瞬回復するのでまあ続けます。
でももう最初みたいに期待しているとはマネージャーからも言われません。それどころか無理を押し付ける本社で毎月こっぴどく絞られます。本社に原因あるのに。
褒められることはありません。他の社員とバイトが自分のことをいろいろ言っているのに気づいてトップの孤独さも感じます。
こうして毎月じりじりと確実に削られていきます。転職も考えますがstage1に戻る確率も高いので簡単にはいきません。
がんばって店長になってもマネージャーになっても、上に行けば行くほど仕事時間が長くなり休みは取れなくなります。

以上自分自身も経験し、あるいは部下の立場でマネージャーや店長を見てきたことです。異業種へ転職して振り返ると本当に地獄だったなと感じます。
残業地獄から抜ける方法
今の会社、店舗、自分が上のstageをたどっていたら抜け出すことを考えましょう。2通りの方法があります。業界内で転職するか、他の業界に転職するかです。
1.飲食業でホワイト企業に転職する
現在は空前の人手不足で超売り手市場です。特に店長経験や技術がある人はどこでも引っ張りだこです。これはチャンスです。
旧態依然とした経営層ではなく、30代40代の若手経営者の方がホワイトな環境を作っていることが多いです。IT活用で仕組みづくりに力を入れています。また就職氷河期を身を持って知っている世代です。社員の働きやすさや満足度向上に危機感を持って具体的に取り組んでいるところが多いです。
今まで求人サイトや求人広告、ハローワークで就職して残業地獄になっているという方はぜひ転職エージェントの利用を検討してください。転職エージェントならホワイト企業に入れる可能性がグッと上がります。
【転職エージェントを使うとホワイトを狙える理由】
エージェントを使って採用活動をしている企業は人材確保に多くの予算を割いています。採用が決まった場合、エージェントに対して企業が報酬を支払う仕組みですが、その相場は初年度想定年収の30%~35%です。例えばあなたが年収500万で採用されたらあなたをとるために150万以上かけたということになります。
これは使い捨ての「労働力」ではなく「人材」が欲しい、本気で人を育てたいと思っている証拠です。また採用にそれだけの予算を割けるというのは、財務状況の良さを意味しているので、無理な労働時間がなく昇給や賞与など入社後の待遇も期待できます。
特に飲食専門のエージェントがおすすめです。飲食経験者が担当してくれるので業務内容などの専門的な話が通じますし、給与交渉なども具体的にすすめてくれます。


2.他業種へ転職する
飲食業経験者は接客経験がありコミュニケーションスキルなどが優れているので他業種への転職の可能性も低くありません。私自身が検討した職種からいくつか紹介します。
営業職
飲食業界にいると伸びるスキルは対人スキル、コミュニケーションスキルです。これを最大限生かしやすいのはやはり営業職です。
また店長経験があれば売上など数字の管理経験、感覚を知っているのでそれも生きてきます。
ただし交渉・折衝が重視される系だと厳しいかもしれません。このあたりは飲食では経験を積めないですし、その業界の慣習や知識に通じている必要もあるからです。これは就活中に転職エージェントで言われたことです。実際私は今Web業界で仕事をしていて納期や要望についての折衝という部分が一番難しいと感じています(デザイナー職ですがこういうこともやっています)。
Webディレクター
どうせ異業種へ行くなら成長している業界がいいですよね。Web業界はずっと伸びていますし今後も引き続き伸びていきます。
私は職業訓練に通って技術を学んでからWebデザイナーに転職しました。今Web制作の現場で仕事をしていて思いますが、Webディレクターは飲食経験者特に店長経験者に向いていると思います。
Webなんてわからない、という場合でも大丈夫です。実際に制作の仕事をするのではなくお客様と制作者の橋渡しをするのが仕事です。お客様の要望を整理して制作者に伝えたりスケジュール管理をしたりなどです。なんとなく店長業務と似ていると思いませんか。私は料理を作る方を中心にやってきたのでWeb業界でも作る方を選びましたが、管理経験や接客スキルのある人なら断然Webディレクターをおすすめします。
もう一つおすすめする理由は、Webディレクターはデザイナーやプログラマーと違ってWebの勉強をしなくてもなれます。しかも年齢を重ねていても不利にならない、むしろ仕事の性質上ある程度社会人経験が長い人、責任者経験がある人が好まれます。実際私は30代半ばでWeb業界の門を叩いたのですが、就活中各エージェントで言われたのが「Webディレクターならたくさん紹介できるんですけどね」ということでした。私はあくまでデザイナー志望でしたが、ディレクターなら40歳前後でも十分狙えます。
また最近需要が高いエンジニアやプログラマーに興味がある人もいるかもしれません。ただ未経験でいきなりだとかなりハードルが高いので、一旦ディレクターとして業界に入り込み、勉強しながらキャリアチェンジを狙っていくという手はありだと思います。
いくつか職種について紹介してきましたが、異業種で自分の強みをどうアピールするかが大事です。そのためには転職のプロの力を借りることが必要です。やはり転職エージェントの利用をおすすめします。どの業界に行った方がいいのか、可能性があるのかというところから相談に乗ってもらえるからです。


