給食調理員はただ栄養士の作った献立とレシピに従って作業するだけだから、誰が作ってもほぼ一緒(=だれでもできる仕事)という意見があります。
一般の人がそう言うのはわかりますが、自分が給食調理員でもそういう意見の人がいます。実はかく言う自分も学校給食調理員の最初の3年ほどは「誰が作ってもほぼ一緒」派だったのですが、とある人と出会って完全に間違っていたことに気づきました。
Aさんが作る中華は魔法の中華だった
私にとって最後の現場となった学校給食センターにいたとき、中華一筋で十数年やってきたAさんが新入社員で入ってきました。(Aさんは家族との時間を増やしたいと考えての給食への転職でした。)
その現場は中学校弁当給食だったので冷却した状態の給食でした(ご飯だけ別で温かいやつ)。
基本的にこのタイプの給食は評判が悪く残食も常に多いです。中華も例外ではなくメニュー自体の人気は低くないのに残食はかなり多かったです。どのくらい残っているかというとおかずを完食している箱を探すのがたいへんなくらいです。
ですが、Aさんが中華(チンジャオロースやマーボー系)を作ると驚くほど残食が少なくほぼゼロになるという「事件」が起こりました。
センター内でも冷たいのにめちゃくちゃ美味しい!!と絶賛の嵐でした。
もちろんレシピは全く変更されていません。
作り手が変わったら味と評判がガラッと変わったというマンガみたいな話です。
※ちなみに大抵新人の社員は栄養士から厳しいマークを受けて常にチェックの目や指導が入るのですが、Aさんは特例みたいに話が通っていました。栄養士「美味しくなるなら全部お任せします!!」的な感じでした。
その後も一緒にやる中で、薬味系の炒め具合とか火入れのタイミング、仕上げ具合とか教えてもらいました。完全に会得はできませんでしたが、こだわることの大事さはわかりました。そして入れている材料がすべて同じなのに調理でここまで差がつくのかと驚愕しました。
料理の科学を舐めない方がいい
ちなみに同じ中華つながりで思い出したので書いておくと、調理学校時代に中華の授業で麻婆豆腐がありました。
師範は中華のプロ(メディアとかにも出ていたそこそこ有名な人)でしたが、その麻婆豆腐を試食しておどろきました。
自分たちの作ったものとまるで違う、別次元の味だったからです。
調理学校なので調味料も材料も完全に計量した状態で作るので、入っているものは完全に一緒です。
手順もみんなの前で師範で作っているので特別な秘技とかももちろん使っていません。
ただタイミングやコツを押さえているとこんなに差がつくのか、と料理の科学に驚愕しました。
料理の科学は給食でももちろん有効だった
学生時代料理の科学的なものを感じたにも関わらず給食は誰が作っても同じだと思っていました。だって実際自分の周りではだれが作ってもいつも一緒だったから。
多少の差はあるものの、ほぼ一緒と言っていいレベル。でもそれは単に周りにAさんみたいなレベルの人がいなかっただけでした。
最初の現場は給食一筋の若いチーフとサブチーフだったので、衛生とか大量調理の基本を忠実に学ぶにはとても良かったんですが、料理のコツみたいなものは全くありませんでした。
唯一三番手の40代男性はいろんな飲食を渡り歩いていて食材の見分け方とかちょっとした料理テクニック、包丁テクニックとか教えてくれましたが。
ただその方はAさんみたいにはっきりわかるほどの味の差は出してなかったので、給食なんて結局大きな釜に突っ込んで、中心温度もしっかり上げなきゃいけないからだれがやっても一緒だなという結論になっていました。
私は学校給食を辞める直前にAさんに出会ったので、給食調理員の腕次第でかなり味は変わるという主張をするに至りましたが、もしAさんに出会っていなかったら自信満々にこう書いていたに違いありません。
「給食調理員の腕で味が変わるとかいう意見があるけど、栄養士が作ったレシピ通りに作業するだけなので誰が作っても同じだから」と。
でも給食は「誰が作っても一緒」を目指す
でも委託会社の経営的な視点から見るとクレームなく作ってくれればいい(=味はまずくなければどうでもいい)ので「誰が作っても一緒」です。
残念ながら会社的には、普通の調理員レベルを超えた、よりおいしい給食を作れる調理員だからといってほとんど評価はしてくれません。
そういう人が一人いたからと言って新しい自治体の案件が高額で取れるわけじゃないですし、事故なく無難に淡々と文句を言わずに続ける社員の方が価値があることになります。
また自治体側も「誰が作っても一緒」になる安定したそれなりに美味しい。を目指しているので、技術と工夫で味をグッと上げられる社員とかは基本的に育つことはないです。
栄養士としては調理員の技術には期待できないので、レシピでおいしさを追求しますしそれが現実的です。
Aさんのように職人の腕を回転釜でも生かせて、さらに性格が丸くて栄養士と全く揉めないなんていう転職者は珍しいですし。
給食はだれが作っても一緒ではない
この記事でもっと調理員を評価すべきとか、調理員は腕を上げるためにがんばれとか言いたいわけではないです。
単に「誰が作っても一緒」という意見は十分理解できる(大部分の人の周りではそれは事実)けど、だからといって「100%誰が作っても一緒」って結論するのははっきり間違いです!って事実を伝えたくてこの記事を書きました。
あと給食を美味しくするために技術と工夫を凝らしている数少ない調理員さんは心から尊敬をします。私にはできなかったので。
だって自分の子どもにそんな調理員さんが作ってくれてたらうれしいですもんね。
完全に余談ですが、個人的に完全に同じレシピでも作る人でかなり差が出ると感じたメニューは「ひじきの煮物」でした。
一時期私が作ると絶賛されるほどになって完全に会得したつもりだったんですが、なぜかいまいち(まあふつうにおいしいけど最上級の仕上がりではない感じ)になるときがあって決定的な成功法則がついにわかっていません。
ひじきの煮物は奥が深いです…
だれかベテランの調理員さん、ひじきの煮物のコツを教えてください。
