自分の子どもが給食を食べるようになると、改めて安全性や献立について考えることもあるかと思います。
私は学校給食調理員として4つの自治体で働いていました。
それをもとに実際の現場の様子をまとめてみました。外食産業での経験もあるので比較しています。
この記事の内容です。
- 給食の食材レベルと外食産業の違い
- 給食を外食で食べたらいくらになる?
- 衛生面の厳しさは?ルールは守られているの?
- 給食調理はふつうの調理とどう違う?どんな調理機器を使うの?
- アレルギー対応食はどうやって児童のもとに届いている?
- たまに不思議な組み合わせの献立があるのはどうして?
食材は安全なの?
まず気になるのは食材の安全性かと思います。
結論から言うと学校給食の食材はハイレベルです。高級食材という意味ではなく、高い安全性を確保しています。
野菜などは国産・地元産が中心になります。どうしても手に入らないもの(多いが)だけ、加工品・輸入品などが使われます。食材は原則当日の朝納品なので保管・鮮度ともに安心です。
一方外食産業はおそらく一般の方が思っている以上に冷凍食材、輸入食材ばかりです。調味料や揚げ油なども外食はとにかく安いもの優先。
だし・スープはどうしている?
多くの自治体ではだし・スープなども手作りしています。
かつお節・昆布・煮干しなどでだしをとり、鶏がら(や豚骨)を煮だしてスープをとります。
私の携わった中ではたまに顆粒のだしを使う自治体もありましたが、基本すべて手作りでした。
今は一昔前にくらべてデザートなども基本すべて手作りのところが多いです。ゼリーなども大鍋でかき混ぜてつくりカップに流し込んでいきます。
学校給食は高価!?
給食費つまり給食の食材原価は一食あたり250円前後。300円を超える場合もあります(学年や自治体による)。
もし給食を外食産業で提供するとしたら750円から1000円くらいにはなります。サラリーマンよりもよほどいいものを食べています。
給食は外食のように「目玉」「お金を取りやすい食材」はあまり使いません。それでこの値段。
逆に言うと外食産業がいかに原材料の品質や手間を犠牲にしているかがわかります。
衛生面の厳しさは本物
学校給食ではマニュアルで定められたたくさんの衛生ルールがあります。
- 手洗い
- 水質検査
- コロコロ(仕事中も)
- 3層シンクというもので野菜は3回洗う
- 温度確認
- エプロン使い分け
- 手袋
- ドライシステム…飲食店ではビショビショの床もあり得ますが、給食では調理中一切水はこぼしません。
他にもたくさんあります。
これ以上ない、というくらい厳しいルールでやっています。
働く側としては慣れるまで大変ですね。
ちなみに手洗いは2回行います。2回というのは、一度目石鹸でよく洗いいったん完全にすすぎ、そしてもう一度石鹸で洗いすすぎます。
一旦すすぐというのが大事らしいです。同じ時間ゴシゴシして一回で終わらせるよりもいったんすすいでもう一度のほうがきれいになるというデータに基づくやり方です。
同じように野菜を3回洗うというのもデータに基づいた手法です。
そして喫食2時間前ルールというのがあります。これは喫食する2時間前に最終加熱を始めるというものです。集団食中毒は加熱後時間が経過することが大きな原因の一つなので、出来上がったらなるべくすぐ食べてもらう、という安全確保です。
私の場合一度学校給食調理を経験してしまうと一般の厨房では不安を感じてしまうようになりました。
仕込み後の時間経過、作り置き、温度管理などなど。常識の範囲内でやっていることでも学校給食の安全意識の高さを基準に考えてしまうと不安になってしまうからです。
本当に守っているの?
外食チェーンなどは衛生マニュアルなどはしっかりと作られているところが多いです。でも建前はそうでも本当はやっていない…ということが多い。
ところが学校給食ではしっかりとやっています。
理由として栄養士が監視役になっている、営利目的でない、労働時間も比較的きっちりしている、などの条件があるからです。
アレルギー対応の工程について
アレルギー対応食も当日までに繰り返し連絡・確認等が行われています。
一般的に多い流れ
- 入学する児童に応じ年単位で対応の範囲が決められる
- 各メニュー栄養士の指示で対応を決定(特定食材だけを除去or最初から別で作るか…など)
- 必ず書類上で担当者がしっかり割り当てられる
- 前日の打ち合わせの段階でしっかり確認
- 当日朝礼でも確認
- 担当者が責任をもって調理
- 配膳係が担任の先生にしっかりと伝わるように直接受け渡し
- 担任の先生の監督のもと児童が喫食
その他現場の様子について
どんな調理機器を使うの?
回転釜…固定式の大きな鍋です。くるくる回して角度を変えられます。下に栓が合って水を抜くことができるタイプが多いです。熱源はガス式・スチーム式があります。
フライヤー…食数が多い現場では連続フライヤーというものを使っているところが多いです。ベルトコンベヤーみたいに移動しながら流れていき、一定時間で反対側から出てくるというやつです。調理は楽ですが掃除が大変です。単層フライヤー(マックでポテト揚げているやつ)のところも多いです。こちらのほうが掃除は楽ですが食数が多い現場では時間内に仕上げるのが大変です。
スチコン…焼き物、蒸し物、コンビ(蒸気を入れながら焼く)などの調理ができます。鉄板を20枚とか入れられるので一気に調理ができます。家庭のオーブンと同じでクセがある場合もあるので焼けないところだけ入れかえたりすることもあります。
真空冷却機…茹でた野菜などを冷やす機械です。茹で上げた大きなザルごと入れます。冷えると同時に水も切れます。
普通の料理との違い
- 余熱がすごい
- 揚げ物の衣は厚め
- 絞っても絞っても大量の水分
- 中心温度を85℃以上に上げる
- ふつうは手腕を動かす作業も全身運動でやる感じ
味付け
給食の味付けは調味料をしっかりと量っておき計画通りに行います。
ただし味付け作業は慎重です。まず予定の3分の2とかを入れて味見しだんだん濃くしていきます。
最後に微調整。1000人分の味付けの調整は最低醤油200㏄とかの単位になります。
学校給食の味と信頼度
一方同じ大量調理でも企業向け給食等ではだいぶやり方が違います。
調理工程は調理師の自由で、味付けも目分量・感覚でやります(私は体験入社や研修等を含めて4社の内情を知っていますがどこもそうでした)。
何百何千人分など、しょうゆを一斗缶でドボドボいれて砂糖をスコップでザクっと放り入れる感じ。
学校給食は数値でしっかりやっているので、人によるムラがなく味が安定し・栄養計算の精度も信頼できます。
現場は知っている献立の秘密
さて最後にこれを知っていると「献立表の見方」が変わるかな、というのを。
まず学校給食の献立は栄養や彩りを考えて作られています…というのは児童や保護者の方もよく知っていると思います。
でも実は他にも献立を決める要素があります。2つ紹介しますが1つは調理機器の都合です。
1.ハンバーグと茶碗蒸しは同じ日に出せない!?
実は献立を立てる際に重要なのが、各メニューでどの調理機器を使うのかという点です。現場からするとこれが給食の特徴の一つです。
具体的には先に書いた以下の3つを使い分けています。
- 回転釜(大きい鍋)
- フライヤー(揚げ物)
- スチームコンベクションオーブン(略してスチコン。蒸し・焼き両方できる)
これらの加熱機器をまんべんなく使うように献立は立てられています。
もちろん栄養や彩りも考えられていますが、最終的には物理的に作れないと実現できません。
例えば、「ハンバーグ」と「茶碗蒸し」。この組み合わせは基本的に無理です。焼き物と蒸し物、両方スチコンだから×。
もう一つの要素はなんでしょう?
それは「数もの」と呼ばれているものです。
2.コロッケとりんごも同じ日に出せない!?
もう一つは調理員の手の数です。学校給食は時間制限が厳しい(先述の喫食2時間前ルール)ので人手がかかるメニューは同じ日にできません。
例えばコロッケとりんご。この組み合わせは食数がよほど少ない学校以外は基本的に避けられます。
りんごは割って皮をむくだけなので簡単そうです。でもこういう加熱しないものの方が大量調理では大変です(実は一番時間のかかる献立の一つです)。
これにやはり「数もの」のコロッケなどを出すのはきついです。
配缶も時間がかかります。すべてのものを2度確認するので汁物などの配缶よりもたいへんです。
このように「数もの」を2つ以上出すような献立は基本的になしになります。
献立はたまに食べる側からみると不思議な組み合わせになっているかもしれません。
そういう場合はこのように「物理的」「時間的」に無理だったのかな…と考えてみてくださいまし(単なる栄養士のセンスの場合もありますが)。
まとめ
- 給食の食材は国産が多く安全性が高い。既製品もほとんど使われない。
- 食材原価から考えると給食を外食で食べたら1000円近くはする。
- 衛生面はマニュアルがしっかりしており守られている。
- 給食調理は特殊な機器を使い、余熱など通常と大幅に変わってくる要素がある。
- アレルギー対応食は細かな確認が行なわれている。
- 献立が不思議な組み合わせだと思ったら、調理機器や人手・時間の制約があるから(かも)
調理員の仕事の一日の流れなどは以下記事をどうぞ。
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