包丁

プロが言う「包丁を見れば腕がわかる」ってどういうこと?

日本料理・和食の世界では「包丁を見れば腕もその人もわかる」とよく言われてきました。

これちょっと疑問に思いますよね、本当に道具を見てそんなことまでわかるものなのか?って。他の世界ではあまりない話だと思いますし。

私は割烹に二年いただけなので日本料理のことはあまりよくわかっていませんが、包丁歴自体はそこそこ長いので思っていることを書いてみます。

包丁の何を見るのか?

まずはじめに、この「包丁を見ればわかる」というのは、新しさや高価かどうかを見るということではありません。

見るのはどんな手入れ・研ぎをしているか・してきたかということです。

包丁は使っていくにつれ刃が摩耗し切れなくなります。切れなくなったら研ぐ必要が出てきます。プロは毎日~数日に一回は研ぎます。研ぐと刃が減るので包丁は少しずつ少しずつ削られて小さくなっていきます。

その変化の仕方(どう変化しているか、どう小さくなっているか)が見るポイントです。

包丁を見て腕や人間性がわかる理由

いい手入れがされている包丁とは、刃のカーブが原型を保ったまま小さくなっているものです。(または、原型ではないが使用者の意図した形に仕上がっているモノです。わざと形を変えて作っていくことも多々あります。)

逆に悪い包丁は、意図せず原型から離れていっているモノです。では、このような差はどこから生まれるのでしょうか。

ビジョンや理想を持っているか

それは研ぐ人がビジョン(将来像・未来像)を持っているかどうかです。

包丁は刃元から刃先まで全体の形やバランスを考えていかなければなりません。適当に砥石に当てているだけでは絶対に形が崩れていきます。このような人はイメージを描きながら研ぎ減らしていくという感覚はありません。いい手入れをする人は、自分の目標や理想となる形を持っています。

もともとの技術の高さはあまり関係ありません。変形してきたなと思ったらいらない部分をひたすら研ぎ減らしていけばいいからです。最初はみんなそういう経験をしてうまくなっていきます。なので結局包丁をしっかりとした形に保とうとする人は技術も上がるのです。だんだんとイメージに従って刃を研ぎだす技術が身につき、さらに進歩して形を乱さない技術になっていきます。

つまり包丁は仕事に対してビジョンや理想像を持てているかのバロメーターなのです。包丁=腕。目標と技術を追求する人がいい仕事をするのは、どの世界でも同じですね。

仕事に対する取組み方があらわれる

妥協せずコツコツ続けられるというのも大切です。

プロは毎日あるいは数日に一回は包丁研ぎをします。このメンテナンスの際、どうしても研ぎ(げ)やすいところ、とりあえずよく使うところを中心に研いでしまうということが出てきます。

忙しい疲れている、そんな先のことまで考えてられない、そういうことが真っ先に出てきてしまうと、チャチャッと刃をつける技術が上がっても長期的には変形させてしまいやすいです。またせっかちな人は手っ取り早くよく使うところだけ研いだり、その時によって角度や研ぎ加減がまちまちなので悪形になって表面化していきます。

包丁を見ると人間性、仕事への姿勢までわかってしまうといわれるのはこういうことです。

研ぎには性格も出る面白さ

やる気や手入れのレベルとは別に研ぎには性格が出る面白さがあります。

割烹や鮮魚の仕事をしていて一番性格が出るところだなとか思っていました。PCフォルダの整理の仕方とかデスクトップアイコンの並べ方に個性が出るのに似ているかもしれません。

せっかちな人はかえりが出たか確認する頻度が非常に多い、両刃の場合表裏を返す間隔が短いなど人がやっているのを見ていると面白かったです。

道具と料理の腕は関係あるか

ここまでで包丁を見ると仕事に対する姿勢が読み取れるということを書いてきました。でもよい包丁を使い、包丁の研ぎが上手い=料理上手というのは成立するのでしょうか。

例えば、100均の包丁を使ってプロ並みに料理上手な人がいても何の不思議もありません。また研ぎ屋さんが皆料理が上手いかというとそんなことはないでしょう。

では、道具と料理の腕は関係ないということになるでしょうか。

結論としては以下の場合は道具と腕は関係ある、ということになります。

  1. 本当に必要だからその道具を使い手入れをしている
  2. 道具のポテンシャルを最大限に引き出す腕もある

この条件に当てはまる使い方をしているのはプロだけでしょう。つまり道具を見れば腕がわかるのはプロの場合です。100点の仕事をしようと思っているからその包丁を選び、包丁を100%の状態にしています。特に日本料理では包丁が料理の完成度の上限を決めてしまうので、包丁を見れば腕がわかると言われます。

プロは最高のパフォーマンスのために必要だからよい道具を使いメンテナンスしています。家庭よりもたくさんの材料を短時間で仕上げていく必要がありますし、一つ一つの素材を最大限に生かし最高の料理に仕上げることを目指します。包丁にたくさんの種類(形状、長さ、材質など)が生まれてきたのも、高価な品があるのもそのためです。包丁の種類についてそんなに必要ないという人もいますが、プロがたくさんの包丁を使い分けるのにはしっかりとした理由があるのです。

一方趣味でやっている人の道具を見てもその人の腕はわかりません。本当に必要だからそのランクの包丁を選ぶということは少ないですし、道具のポテンシャルを100%引き出す機会もほぼありません。なので家ではメンテナンスや予算のことを考えて万能包丁一本で十分な場合も多いということになります。

では趣味で料理の腕を上げたいという場合は安い包丁でいいのかということになりますが、もちろんある程度いい道具を使う方いいです。料理の、というより包丁の上達が早くなるというメリットがあります。

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