研ぎの上手さと包丁づかいの上手さというのは関係あるのでしょうか。
和食の職人をのぞけば別ものだと思っていたのですが、意外と関係は深いかもと感じたことがあったのでそれについて書いてみます。
研ぎを教えていて感じたこと
以前いた職場では調理専門学生を厨房に受け入れていてその際時間をとって研ぎを教えていました。
3年間くらいの間に全部で20人くらいの実習生を見てきましたが、そこで感じたのは包丁が上手い子は総じて研ぎも上手いということでした。また包丁が上手い子ほど指示したことに対しての段取りもよく、この相関関係から外れる子はいませんでした。
料理は見てないのでわかりませんが、おそらく関連あるんだろうなあということになります。もちろん上手いと言っても学生の中ではっていう相対的な話ではありますし、そもそも私自身偉そうに批評するには百年早いのですが。
ちなみに調理の専門学校に行くと包丁も砥げるようになるわけではありません。調理の専門学校と言っても研ぎなんてほとんど授業でやりません。
私のときも一回だけ外部講師が来て実演をみて、実習をしてっていうのを2時間くらいだったかな?やっただけでした。あとは各自が授業の前後とか家とかで練習するのみです。よく砥いでるのは数人しかいなかったですし、ぜんぜん研いでない全く切れなくても平気な人が多かったです。
話を戻すと母体が少ないとはいえはっきり研ぎと包丁の上手さに関連を感じたので、彼ら彼女らの様子を分析してみました。
そして、包丁づかいと研ぎが上手いAグループ(およそ5人に2人くらい)とそれ以外のBグループに分けて整理してと感じたことは以下の点です。
【左手】力点(包丁と砥石の接触部分)を意識できるか
包丁研ぎのときにどこに力点(砥石と包丁が接触している点)があるか。
言い換えると注意を集中するポイントの点。
Bの子たちは砥ぐ時に砥石に包丁を当て前後に動かすという動き(カタチ)そのもので精一杯で、どこを研いでいこうとかここを研ぐという意識自体ができていない感じでした。仮にそれがあってもポイントがふわふわして左手もちょっと定められてはいない感じです。動きも視点も漫然としているという感じを受けます。
そういう子は包丁でモノを切る時も同じ感じで、包丁で材料を切るまさにそのポイントではなく、左手や右手を動かすことに一生懸命な感じでした。ちょっと主観的な感覚ですが、自分自身もなかなかコツがつかめないタイプだったので気持ちがよくわかりました。
一方Aの子たちは何はともあれ力点を定め、左手で砥ぎたいポイントが押さえられています。ですのであとは細かい点を修正したりするだけでよく、ポイントをどこに置いたらどうなったかを一緒に検証すればあとは自分でトライアンドエラーをして上達していきます。
【右手】手ではなく腕から動かす
研ぎの基本の一つは右手・右腕をいかに安定して水平に前に押し出し後ろに引けるかです。これは包丁を使う時も同じで、左で固定・誘導し、右は必要なら肩~腕~ひじからぶれずに反復します。
実際には包丁はカーブしているものが多いので、柄を持っている右手は狙いに合わせて柔軟に角度を変えたりします。
でもその前段階の基本として全く角度を変えずに前後運動させられることが大事です。
Aの子たちは研ぐ際も基本的にこの法則に従っている一方、Bの子たちは研ぐ際に手だけ動かそうという感じが強いので、包丁の当たる角度は前後でぶれぶれだったりします。
また、右手にへんに意思を持ってしまっているので左右の正しい役割分担が難しいようでした。役割分担:右手は角度をコントロール。左手は実際に当たるポイントを押さえる。
研ぐ際に感覚、ビジョンがある
また、切れ味の確認についてはAの子は自分で切れ味の違いを感じられるのに対し、Bの子は自分で違いを判断するのが難しい傾向がありました。
爪に食い込ませる方法、まな板に押し当てる方法、紙を切る方法など
これは普段から包丁の切れる、切れないの感覚を意識しているかということと多少なりとも関係しているのかもしれません。
また包丁の原型を保ったまま研いでいくということに関してもAの子の方が明らかに意識できているようでした。
結論:包丁研ぎをすると包丁づかいが上手くなる…かもしれない
研ぎが上手いと包丁も上手い端的な理由としては、研ぎの際の動き・意識は包丁を使う時に似ているからということが言えそうです。
例えば私自身包丁を握り始めた初心者の頃は一生懸命モノを切ろうとしていた気がします。
今はあまり切るという感覚ではないというか固定した軌道上をイメージ通りに動かしている感じです。
研ぎも同じ感じです。
まあこまごま考えなくても、研ぎでもなんでも包丁をいつも持っていれば自分の手腕の延長のようになるって話でいいんですけどね。
その意味でも包丁づかいがうまくなりたい人はぜひ包丁研ぎをやってみてほしいと思います。全く別々のスキルではないと思うので思わぬ上達ができるかもしれません。