包丁の素材(鋼材)には様々な種類があるので、どうやって選べばいいかわからなくなることがあると思います。
鋼材ごとの特徴(切れ味・錆びにくさ)を押さえておくことで、
- 限られた予算でできるだけ良いものを選ぶ
- 自分が欲しい機能を手に入れる
ということができるようになります。
またこの記事では鋼とステンレスの違い、特殊鋼(クロムモリブデンなど)についても書いています。※専門的にこの素材は~ということではなく、いろんな種類があるのはどういうことなのかという概要の話です。
切れ味と錆びにくさ
鋼材の機能と言っても細かいことを言ってもわかりにくくなるだけなので、ここでは切れ味・さびにくさという2点だけで絞ってまとめていきます。
切れ味
理屈は置いておいて、切れ味順に並べるとおおよそこんな感じになります。
- 鋼(青二、白二など)
- ハイス鋼・V金10号・銀三鋼
- モリブデン鋼・クロモリ(クロムモリブデン)鋼・MV(モリブデンバナジウム)鋼
- ステンレス
※ステンレスの定義:特殊鋼2.3.もステンレス系ですが、ここではその他ステンレス(ホームセンターの2,000円位の)というイメージにしています。鋼もその質によって変わりますが、基本的に同じお金を出すなら鋼が一番切れます。
セラミックはちょっと位置づけが難しいのでここでは除きます。硬度はすごいけどもろいという極端な性質のため。
錆びにくさ
錆びにくい順に並べるとおおよそこんな感じになります。
- セラミック ◎
- クロモリ鋼、ステンレス、ハイス鋼 〇
- 割り込み △
- 鋼 ×
1.のセラミックは陶器なので錆びとは無縁です。
2.も塩水に漬けっぱなしにするなどわざと錆びさせようとでもしない限り錆びないので、錆びないと断言しても間違いではないくらいです。(20230805追記 コメントいただきました⇒ハイスはややさびやすいので一応注意が必要 他の鋼材についても「わざと錆びさせようとでもしない限り錆びない」は言い過ぎでした。)
3.割り込み(鋼の刃を両側からステンレスでサンドイッチしたもの)の場合刃の部分だけ錆びやすいことになります。家庭で使われている場合だいたい刃のところ1~2ミリが常に変色しているイメージです。
4.鋼は最も錆びやすいです。使ったら必ず拭くことを習慣にする必要があり、それができない人にはおすすめできません。またレモンなどを切ったら一瞬で刃が変色していきます。
目的による選び方
ここまでのまとめとして目的別の選び方です。
- なによりもとにかく切れ味が欲しい、毎回拭くのはかまわない →鋼
- 切れ味重視だけど、錆びるのは嫌 →クロモリ鋼、ハイス鋼
- 錆びはできるだけ避けたい、廉価で切れ味も欲しい →割り込み
- 錆びなければOK、切れ味よりも安い方がいい →ステンレス
鋼(ハガネ)とステンレスの違い
鋼(ハガネ)とステンレスの違いについて言葉の定義や元素などからもう少し詳しく見てみてみましょう。
錆びにくさの理由
鋼の包丁は錆びますが、ステンレス鋼の包丁は錆びにくい。これが最大の違いです。ちなみにステンは「錆びる」、レスは「ない」つまり錆びないという言葉です。
ステンレスがなぜ錆びないかというと、クロムやニッケルなどが通常の鋼より多く混ぜられているからです。これらが合金の上に膜を作って腐食を防いでいるというイメージです。
鋼の方が研ぎやすいし、切れ味はいいし、コスト的にもいい
基本的に鋼の包丁の方が研ぎやすく、ステンレスは研ぐのが難しい(刃がつきにくい)ものです。つまり研ぐのが得意でないとステンレスの切れ味を持続するのは難しいとも言えます。
基本的に同価格帯なら鋼の包丁の方が切れ味がいいです。ただし錆びるという弱点を小さく見ない方がいいです。
特殊鋼~○○鋼とかいろいろあるのは何なの?
例えば、気になった包丁の説明に「クロムモリブデン鋼」って書いてあったらこれは何なの?って思いますよね。
これらは特殊鋼の種類の一つです。
ここでそもそも鋼とは何かという話なのですが、鋼というのは鉄(Fe)と炭素(C)などの合金です(炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の5元素は必ず入っている)。ちなみに私たちが鉄でできていると呼んでいるものは大抵鋼です。
100%(Fe)の元素だけの塊というのは自然界にもないし、現在の最高の製鉄技術をもってしてもつくれないからです。
ステンレスも特殊鋼でクロムが10.5%以上含まれているものです。特殊鋼というのはこのように普通の鋼に特殊な元素を(1種類か数種類を組み合わせて)加えることで何らかの性能を向上させた鋼です。
目的に応じて加える元素の例
- 高硬度:タングステン、モリブデン、クロム、バナジウムなど
- 弾性と疲労強度:ケイ素、マンガン、クロム、バナジウム、ニッケルなど
○○鋼というのはこのような形で作られ、錆びずに切れ味の鋭いものが生まれています。ただし、それだけ値が張ることになります。
なお上記で高度/弾性・強度という分け方をしていますが、これは刃物というのは硬ければいいというものではないということです。硬いというのはもろいということでもあるからです。
まとめ
目的による選び方まとめです。
- 錆びてもいいから切れ味が欲しい、研ぎやすい方がいい(安い方がいい)→鋼
- 切れ味はそこそこでいいから錆びない方がいい→ステンレス鋼
- 錆びずに切れ味が欲しい(そのために予算も多めに出せる)→クロムモリブデンなどの特殊鋼
コメント
コメント一覧 (4件)
②も塩水に漬けっぱなしにするなどわざと錆びさせようとでもしない限り錆びない
とありますが、ハイスに関しては梅雨の時期の湿気でも錆びてしまうくらい錆びてしまいます。少しの水気でもアウトです。
>ハイスナイフ専門鍛冶屋さん
コメントありがとうございます。
私個人としてはハイス鋼も「限りなく錆びにくい」という認識でしたが
「わざと錆びさせようとでもしない限り錆びない」は確かに言いすぎました。
また今読み返すと、いくらさわりの説明にせよ、記事タイトルのわりには大雑把すぎる分類にしてしまったのは反省です。
記事内に赤字で修正を入れさせていただきました。ご指摘ありがとうございます。
材質の話かと思いきや、いきなり「割り込み」とか出てきて、なんだこりゃ?ですわ。
「割り込み」は構造なんですけどね。
だから、鋼の割り込みもあれば、ステンレス系の割り込みもある。
もうちょっと勉強しましょうね!
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り確かに材質の中にいきなり構造を混ぜてしまったのはダメですね。
一応本文中一番多いタイプである割り込みであることは記載しているのですが↓
「割り込み(鋼の刃を両側からステンレスでサンドイッチしたもの)」
リストの中に「割り込み」をいきなり登場させたのは記事としてだめでした。
あらかじめ「割り込みや合わせなど異なる素材を合わせて作られているものがあります」ということを図示など含めて書けばよかったです。
初心者の視点で誤解なくわかりやすく書けるように精進します。
…今時間がないのでとりあえずこのコメントをもって補足とさせていただきます。