【勉強になる】読み物としての料理本おすすめ

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「料理本といえばレシピ本」というイメージがあります。でもレシピではない料理読みものはたくさんあります。

今回は今まで読んできた中で良かった本を紹介してみようと思います。おもしろく勉強になる本。といってもそれほど多くの本を読んできたわけではない(せいぜい数十冊レベル)ですし、あくまで個人的な好みによるまとめです。

ただ料理系の読書ははじめて、という方なら「こういう系統・切り口の本があるのか」という参考にはしていただけるかと思います。

目次

人間は料理をする(上下)

一冊だけ料理に関するおもしろい読みものを教えてくれ、と言われたらこの本をおすすめします。

これまで料理系の読書はせいぜい数十冊かと思いますが、その中で「読んで勉強になった」「おもしろかった」どちらも文句なくNo.1です。

内容は著者が料理修行(日本人の想像する修行ではなく、ごく短期間のマンツーマン指導)をするというもの。その過程であらゆる角度から料理の本質に迫っていきます。題材は豚の丸焼きやパンなど料理の基本的なものだけです。その最高のものを求める。すると基本すぎるものだからこそ、必然的に料理の本質に迫ることになる、というわけです。ふだん私たちは「料理とは材料やスパイス」というイメージを抱きがちです。でもこの本を読み終わると「料理とは火、微生物、時間、空気、塩」など基本的な要素から成り立っていることを意識させられます。

この本は上下巻ありますが、上は「火」(豚の丸焼き)、「水」(スープ)。下は「空気」(パン)、「土」(発酵食品)というテーマです。興味がある章を選んで読んでもよいと思います。

全章構成が抜群にうまいです。料理修行の様子を臨場感とユーモアたっぷりに描いているかと思えば、人類のはじめにタイムスリップしたり、はたまた化学つまりミクロの世界に移動していたり。これらがスムーズに行き来するので読者に負担をかけさせませんし、飽きさせません。各章を読み終わる頃には読書のフルコースを味わったような満足感を得られます。

筆者は料理人ではなく、また科学者でもありません。そのかわり守備範囲はとても広く、人類史、自然、哲学、文化、医学などとにかく多角的な視点を持っています。それらを小難しくない形で読者に手渡ししてくれます。

そして守備範囲の広さのわりに頭でっかちではありません。我々と同じように自宅キッチンで試行錯誤をしますが、たくさんの失敗をユーモラスに伝えることを忘れません。師匠にした料理人へのリスペクトは忘れないですが、盲信することなく冷静な目を常に持っています。

料理の勉強をしたいけど教科書みたいな料理科学系は読むのがしんどいという人。また短編のエッセイなどでは読み足りないという人。どちらの人にもおすすめできます。

同じマイケルポーラン氏では「雑食動物のジレンマ」もおすすめです。

料理の四面体

違う料理名でも実は共通点だらけ、代替可能な部分だらけ。料理する人ならだれでもいつかは気づきます。でも体系的に思考してみる、整理してみる、というのは普通の人はしません。この本はそれを代わりにやってくれます。

本の結論をまとめてしまえば、この本の「四面体」(=三角錐)、これの底辺が生の状態。頂点が火。頂点に向かう3辺は水、空気、油。どんな料理もそのどこかに位置しているよ、という話。一見まったく違うものでも共通点を探して物事をシンプルに捉えてみようという発想です。

もし「レシピを見ながらじゃないと作れない」という人がいたら一読してみてほしいです。たぶんレシピの本質をつかんで応用するのが上手くなりそうです。※料理だけでなく、あらゆる物事の上達に役立ちそうです。

とはいえこの本は読んだからといって料理がうまくなるわけではありません。また良いレシピが作れるようになるわけではありません。この本はあくまで食材と加熱による変化を単体で捉えていて、食材どうしの相性や最適な加熱方法を追求したりはしていないからです。そう考えると「料理名」の本質(分類・モデル化)を追っているにすぎず、料理の本質にはまったく触れていない、言葉遊びの本とも思えます。

それでもおすすめするのは、この本があまりに独創的だからです。たぶん私では数千年料理し続けてもこの発想には至らないでしょう。だからおもしろい。

なお四面体の話は終盤でようやくでてきます。そこまでは下準備と考えると「カラマーゾフの兄弟」に似た冗長さを感じたりもしますが、今回読み返してみたら思っていたより前半も楽しく読めました。海外でごちそうになった料理が作られていく様子、自分で再現してみる様子、これらの表現力はさすがです。また日本の料理学校では知ることすらない各国の料理を読み物として知れるのは楽しいです。こういったのは逆に完成写真や映像ではだめかも。見た目に引っ張られて本質に気づきにくくなるので。

この本に対する印象は変化していくものなのかもしれません。私の場合↓

  • 調理学校で料理をかっちり学んだあと →「この本なんかすごい」
  • その後数年経つ →「なんか当たり前のことを長々と言っているな」
  • さらに年数が経つ →「(一周まわって)やっぱりすごい」

今思うのは、書かれたのが1980年というのがすごいです。料理人の世界は専門ジャンルと伝統に縛られ完全に閉鎖的だったはずです。今のように柔らかい発想でYouTubeのお手軽料理が発信されていたわけでありません。そう考えるとこの時代にこの発想を本でまとめあげたのは天才的とも思えます。

おいしさの錯覚

おいしさとは舌で感じるもの、おいしい一皿は絶対的なもの。昔ながらの職人気質の料理人を中心にそう思っている人は少なくない気がします。

この本では“あらゆる要素”がおいしさの感じ方に影響を与えることが実験など客観的事実によって確認されています。おいしさは舌だけで決まるわけではなく、店の成功は味だけで決まるのではない、ということを再確認させてくれます。特に飲食経営者・個人店の店主などは営業的に必読かもしれません。

飲食店はもちろん小売りにも関係してきます。例えば売り場の音楽を変えると特定の国のワインが売れるといった具合です。

ただ訳者が書いているように日本人にとってはもともと当たり前の内容とも思えます。個人的には、思っていたよりは視覚や雰囲気の影響力って小さいんだなと思ったくらいです。

翻訳のせいか前半読みにくい部分があったのと、筆者の主張にクセがある部分(例えば個食に関する部分)があったのが気になりました。ただそういう細かい点はさておき、視点を味そのものから広げてみるという取り組みには良い本です。

料理をしているとついつい視野が狭くなって料理そのものに集中しがちです。「錯覚」をうまく利用して満足感を上げる意識は大切かもしれません。

寿司屋のかみさんのちょっと箸休め

やや小難しい本が続いたのでここらで軽めのやつを。というわけでエッセイ。

2003年の本で、私が読んだのもその頃のはずです(高校で調理師免許を取った後のハタチ前後か)。それから20年くらい経ってもパッと思い出せるということはそういうことなのだと思います。

本のタイトル通り「箸休め」的な読み方には最高です。楽しい、なんだか心地よい、そして意外にも勉強になります。

エッセイなのでまず寿司屋の日常、店内の情景などで自分がそこに居合わせているかのような楽しさがあります。もてなす仕事をしている側のあたたかな心が伝わってきます。

今は「食べる」ということを描いたマンガやドラマがたくさんあります。それだけにたまには文章だけで想像力を働かせてみるのも楽しいものです。絵や映像からちょっと文章に戻ってみたいという方はぜひ。

「箸休め」なので、ある程度の料理経験がある人なら作れそうな料理は多いですが、実際には寿司屋みたいな材料は手に入りません。でも魚介は手に入らなくとも箸休め的な料理を考えるヒントになります。例えば野菜と大豆製品だけでもちょっとうれしい小鉢を作れないだろうか、とか。

この記事を書きながらAmazonで確認していたら「寿司屋のかみさん」はシリーズになっているようです。私は他のは読んだことないですが、おそらくハズレはない気がします。この方の文章を嫌いな人はほとんどいないでしょう。

フランス式おいしい調理科学の雑学

なぜなぜ本です。翻訳なので横書き。

料理や食材の「なぜ」や実験だらけの本。「なぜ」に対する答えが簡潔なのでわかりやすい。半分くらいイラストで字は小さめ。

調理科学の一つの入り口としておすすめできます。道具からはじまり、主に食材ごとにまとめられています。雑学というと取っ散らかった感じの本もありますが、この本はテーマごとに集中的にまとめているので混乱しにくいです。興味のあるところをパッと見つけてそこから読んでいくことができます。

一例として前半の「塩」(料理科学と言えば外せないのは塩)。例えば料理レシピのついでに塩のうんちくを学んだとしてもなかなか塩の扱いのすべてを網羅的に学べません。この本は約10ページと簡潔な量で塩の扱いを網羅しています。

たまにやや理屈っぽすぎて現実の料理では気にしなくてよさそうなところまで突っ込んでいたりもします。また間違った方法(著者視点での間違い)に対する皮肉が強めです。※個人的には必ずしも間違いとは断定できないような点まで皮肉を込めて全否定するスタイル。この辺は好みが分かれそうです。

他にも肉全般や卵など料理のキーになる食材の基本的な扱いを学べます。しかもしっかり理由付きで。

ただフランスの本なので日本ではなじまない部分も多いです。例えば「フランスのクリームの種類」とかは多くの日本人にとって不要な部分です。ただこのあたりは読み飛ばせばよいです。文章がつらつらつながって書かれているわけではなく、イラストとの組み合わせブロックになっているので読み飛ばす部分を選べるのも便利です。

なお料理科学の本というのは絶対正しいとは限りません。これはすべての本に言えます。20年以上前に調理の学校で学んだ身ですが、今ではぜんぜん違っていたという方法はいくつもあります。なのであくまで「現在の調理科学では…(あるいはこの著者によれば…)」という範囲で捉えておけばよいです。

マギーキッチンサイエンス

これはおすすめですが、おすすめではありません。いややっぱりおすすめです。

どういうことかというと、ガチすぎるのです。まずボリュームが、もはや百科事典。章の分かれ方も百科事典。何ならページのレイアウトも何もかも百科事典を思い出させます。

つまり「読む」感じのものではなく、特定のジャンルや食材について「調べる」みたいな本。

ただ本気で料理をやっていこうという人なら一度は目を通しておくとよいと思います。広く基本的な知識をカバーできます。これ一冊で料理科学系数冊分以上の知識が入りそうです。※もっとも真剣に読んで吸収できるかは別問題ですが。

なお読破しようとすると二桁時間はかかります。一気読みは不可能なので(仮にできても吸収できない)、コツコツと毎日読み進めるのがよいと思います。

個人的には卵の章はおすすめです。卵はやはりこういう本と相性がよいようです。

美味礼賛

これもおすすめですが、おすすめではありません(2回目笑)。

料理本の古典、聖書とか論語みたいなものかもしれません。というわけで少し前に読みました。

ある意味驚いた本です。まず食べるということに関してこんなに考察しようとした著者はすごい。尊敬とかではなく、変態的な意味で。「200年前にここまで考えていたなんて…」という驚きではなく「どんな時代だとしてもこんな変態がいるなんて…」という驚き。

料理に関するユニークな本というのはたくさんあると思います。でもこの本は変態的発展性というか変態的守備範囲の広さという意味でユニークすぎです。時代を超えて現代でも読まれているというのも納得できます。だってこんな変態他にいないでしょう。

序盤から話がやたらと大きく、性と結びつけてしまうことも大きな特徴。そういった箇所が多くまじめに読むのがきつくなる人も多いと思います。古い本なので「それはどうなんだ」という内容は少なくありません。ただ正しい知識等を求めるのではなく、考え方のヒントや新しい視点を得るには有益な本です。

香りや嚥下など、人間の感覚器官と味の関わりなどの分析部分は面白く、それらのくだりは読む価値があるなと感じさせてくれます。加えて面白いエピソード(有名な神父さまのオムレツなど)や食に関する名言なども多数登場します。ただ玉石混合というか、謎な部分や退屈な部分も多いです(そもそもこの本は著者の自己顕示欲のあらわれ?)。

ともかく古典的な名著であり、料理系読み物のベースと言える本なので一読しておくと、他の本を読むときの土台になります。例えば「美味しんぼ」とかなり似通ったものを感じました。いろいろな料理系の本でも美味礼賛の言葉は頻繁に引用されます。というわけで一読しておくとそれ系の本の理解がはやくなるかなという意味でリストに含めてみました。

ちなみに私が読んだのは解説が挟まっているやつです(↑画像の表紙のやつ)。解説ありでよかった。これでも部分的に読むのがきついところがあったので、読むならこれでよいと思います。

まとめ

料理に関する本はたくさんありますが、ハマるものは人それぞれかと思います。

この記事では紹介しませんでしたが、他に私が好きな本としては

  • 盛り付け系 …盛り付け中心のものは写真が美しいので
  • 江戸系 …「豆腐百珍」ほか、落語世界の光景が浮かんできそうなもの
  • 表現系 …「美味しい味の表現術」は視点がおもしろかった
  • 包丁系 …道具系としてはやはり包丁。「包丁と砥石(柴田書店)」はおすすめ
  • 大量調理系 …理論とデータが中心。「大量調理-品質管理と調理の実際-」は料理の各種データが得られます
  • 専門料理系 …「日本料理のコツ」「鶏料理(柴田書店)」「すしの技すしの仕事(柴田書店)」など

料理本は文章がおもしろい本以外にも、写真中心の本だったり、技術本だったり(専門技術系は柴田書店の本がおすすめ)、いろいろあるので自分にハマるものを探すのは楽しいかもしれません。

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