私は調理師としていろいろな現場で働いてきましたが、一番長かったのは給食系の仕事。学校給食や産業給食や病院など。数字は好きではないですが仕事のポイントなので大事にしてきました。
この記事は、大量調理とは数字である、という話。数字が関わる4つの要素(あくまで個人的な分類)で書いてみようと思います。その4つとは、衛生、計量、クオリティ、時間です。
衛生面に関する数字の知識
衛生ルールはぜんぶ科学的根拠に基づいているべき。なので本質的に数字との縁は深いです。
ただ実際数字で意識することは少ないものです。例えば次亜塩素酸ナトリウムの濃度。数字で言えば200ppmといった感じ。現場では「キャップいっぱいでこの容器のここまで」といったパターンになります。衛生管理マニュアルでもそれがすすめられています。
というわけでふだん扱う数字は加熱温度と冷却温度くらい。ただそこで止まってしまうのではなく、各細菌類の繁殖温度帯などを再認識しておくのも大事です。こういった知識がしっかりしていると潜在的な危険をつぶす意識が強くなるからです。例えば特定の条件での放置など「これは危ないかもな」というやり方を避け、判断が的確になります。
また消毒の方法。普段は殺菌保管庫の使用がほとんどかと思いますが、煮沸法(100℃10分)や熱水法(80℃10分)などもおさえておくのが理想。他にも蒸気消毒法や紫外線殺菌法など。こういった知識はやはり普段の作業時に潜在的な危険をつぶすことにつながります。
毎日の衛生管理は各人の意識に依存しています。ただ手荒いや消毒など、どのスタッフがちゃんとやっているのかはよくわかりません。そういった中で個人や現場全体として信頼を得られるか。適切な機会に根拠の数字をしっかり答えられると衛生面での信頼が高くなります。
計量~調味料を最速、最小スペースではかる
大量調理では計量という作業がそれなりのウエイトを占めます。
その作業を最大効率で行なうにはどうする?という話です。これは容器の容量(㏄やL)を覚えるべし、です。できれば現場で使っているボールなどの容量をすべて把握してしまいます。
そうするとちょうどよいボールなどに計量できるようになります。
例えば①1000㏄と②2000㏄と③3000㏄のボールがあります。しょうゆ1200㏄なのに①を選んでしまうと入りきらなくてやり直し。でも③を選ぶと作業台が狭くなります。大きなボールが足りなくなるかもしれません。
それぞれのボールの容量を覚えてしまっていると最速かつ最小スペースで無駄なく作業できます。作業しながらでもいいですが、片付けが早く終わった日などに水を入れてみて覚えるのもよいです。
私が最初に学校給食に入ったときのチーフはこれを徹底していました。マンモス校なのに狭い調理場だったのでこうせざるを得なかったので。
もちろん固形物にも応用できます。砂糖や小麦粉は重さで量るので3/5(小さじ1で3g程度)くらいです。
調理のクオリティを上げる上で数字は大事
調理とは科学です。例えば…
煮干しだしの加熱は15分以上にする…時間経過による浸出率変化のグラフでは15分以上で鈍化するため。
給食ではなぜこういった数字が重要かというと、毎日メニューも扱う食材も変わるからです。専門料理店は熟練した職人が毎日繰り返し作業をします。職人的カンや試行錯誤がモノを言います。でも給食はそれができません。一回こっきりの限られた食材なので冒険や実験もできません。そこで上記のような実験室から公表されている数字が大事になってきます。
調味%も目分量でぴったり味を決める上で役立ったりします。学校給食は計量しますが産業給食は全部目分量でした。醤油を一斗缶からそのままドボドボ入れたり、結局カンと経験なのですが、それを向上させる上で知識は役立ちます。
時間が読めれば怖いものはない
大量調理とは時間が読めるかがすべて。この記事で一番書きたかったポイントはここです(というか前の3つは別に重要じゃなかったです)。
大量調理で余裕を持てないのは常に時間に追われているからです。逆に言えば時間が読めていれば怖いものはありません。
極端な話、間に合わない時でもイライラしたり無駄に焦ったりしなくてよいです。栄養士やチーフに「このままだと7分遅れます」と断言することもできるからです。まあこうなる前に応援を呼んだり、そもそもスタートをはやめたり、交渉したりなど手はいくらでも打てます。
時間読みができるかは、主に以下の数字をおさえているかに依存します。
- お湯が沸く時間(何分目で何分かかる、夏冬の違いくらいは把握)
- 切りもの 特にフルーツなど最終工程の切りもの
- フライヤーは時間×回転数
※回転釜の沸いてからの煮込み時間やスチコンの加熱時間などはそのまんまです。なので別に意識しなくても問題なし。
時間の把握、やり方は簡単です。スタート時刻を覚えて置き、作業の4分の1が終わった時点で時計を見る、4倍したのが終了時間。フライヤーでの加熱などはこれでよいです。
野菜やフルーツカットなどの場合、だんだん作業速度が上がるものなのでさらに半分終了時点で時計を見ます。3分の2が終わるころにはスピードが安定していたり。ここまでくればもう終了予測時間のズレは大きくても2~3分程度になります。
毎回こういう記録をとって蓄積すると前日の段階でもうタイムスケジュールは頭に描けるようになります。
まとめ
大量調理は数字が大事でした。そして一番重要なのは時間。時間の読みさえしっかりしていれば怖いものはありません。
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